教育思想史学会奨励賞

教育思想史学会奨励賞は、今後、教育思想史研究を担っていくことが期待される、比較的研究歴の浅い、将来性と可能性に富んだ研究者に贈られるものであり、「教育思想事典」の印税寄付による特別会計予算を有効に活用し会員の研究活動に有益な還元を行う一環として、2003/04年度に創設されました。

第14回教育思想史学会奨励賞の審査結果

第14回教育思想史学会奨励賞の募集は、2016年11月30日に締め切られ、奨励賞特別選考委員会および理事会において対象論文2本を厳正に審査した結果、今回は「該当なし」と判断いたしました。

第13回教育思想史学会奨励賞の審査結果

第13回教育思想史学会奨励賞の募集は、2015年11月30日に締め切られ、奨励賞特別選考委員会および理事会において厳正に審査した結果、受賞者が決定しました。
以下に、教育思想史学会奨励賞特別選考委員会からの報告を掲載いたします。

【受賞者】山田 真由美(慶應義塾大学・大学院生)
【受賞論文】「高坂正顕の教育思想における『主体』概念」(『教育哲学研究』第109号、2014年5月)

【審査結果及び受賞理由・報告】

京都学派の哲学者・高坂正顕は、戦争責任を問われての公職追放のあと教育学者として復帰したが、今日に至るまで『期待される人間像』(1966年)と結びつけて語られることが多く、国家主義者として位置づけられて、教育学一般だけでなく「京都学派教育学」研究においても冷淡な扱いを受けてきた。本論文は、その高坂の教育思想を改めて問い直し、「主体」概念を手がかりに、高坂に対する従来の見方を乗り越えようとする試みである。

本論文の主張は大きく次の3点にまとめることができる。①戦後における高坂の教育思想は、戦前に展開された彼の歴史哲学にまで遡ることにより、西田幾多郎及び田辺元の歴史哲学を継承する思想の系譜に位置づけて検討する必要がある。②高坂の歴史哲学の要諦は、西田の「行為的直観」と田辺の「種の論理」の止揚を試み、個的主体と種的基体の弁証法として歴史を描くことにあり、そこでは国家と文化の矛盾を否定的に媒介する主体の実践が歴史の動力とされる。③高坂の戦前の歴史哲学と戦後の教育思想は基本的に連続しているが、他方で教育思想のほうは歴史哲学に見られた躍動を欠いている。

こうして本論文は、高坂の戦後の教育思想が戦前の自らの歴史哲学の延長上に「自由な個人」を重視し、歴史の「自由なる創造者としての主体」形成をめざしたことを確認する。だが著者は、個人に国家を優位させる国家主義者としての高坂という見方をひっくり返すことで、高坂の安易な再評価をもくろんでいるわけではない。むしろ、自由な個人の形成と「日本人」の形成を矛盾なく接合してしまう高坂の歴史哲学-教育思想に内在する空隙を指摘し、それを「京都学派教育学」研究が見過ごしてきたことを問題として提起する。高坂を含む京都学派教育学の積極的な可能性と同時に、それが抱える本質的な問題を浮き彫りにするのである。

このように本論文は、戦後教育学の盲点、あるいは近代批判に立つ教育学の空所とでもいうべきものをあらわにすることによって、今日の教育学に重要な問いを投げかけている。テクスト読解と思想史的コンテクストのあいだを行き来しながら、緻密で説得的な議論を展開しており、多くの選考委員から高く評価された。その一方で、論文が問題の提示で終わっており、多様に議論が積み重ねられてきた「主体」の問題と本格的に格闘していないなどの課題も指摘された。だが、本論文の真価は問題提起や議論の土俵設定にこそあるということもできる。本奨励賞には、研究者としての将来の可能性への期待も込められている。この論文が京都学派教育学をめぐる議論を活性化するよう願うとともに、何よりも今後著者自身が自ら提示した問題を追究していくことを期待したい。

以上の理由により、本賞選考委員会は、山田真由美氏の上記論文に第13回教育思想史学会奨励賞を授与することを決定した。

選考委員会委員長 松下良平

教育思想史学会奨励賞・過去の受賞

受賞者(所属) 受賞論文
第12回 村松 灯(東京大学・院生) 非政治的思考の政治教育論的含意―H. アレントの後期思考論に着目して―
第11回 河野桃子(信州大学) 前後期シュタイナーを貫く「世界自己」としての「私」という観点―シュタイナーのシュティルナー解釈に見られる倫理観に着目して―」
第10回 生澤繁樹(上越教育大学) 民主的な子どもの性向を育てる―デューイにおける家庭・学校・共同体のアポリア―
第9回 関根宏朗(岩手県立大学) エーリッヒ・フロム『自己実現』論の再構成―『持つこと』と『在ること』の連関に注目して―
第8回 鈴木篤(兵庫教育大学) 1920年代ドイツ「教育の限界論争」の再検討―S.ベルンフェルトの議論を中心に―
第7回 青柳宏幸(中央大学・非常勤) マルクスにおける労働と教育の結合の構想―国際労働者協会ジュネーブ大会における教育論争を手がかりとして―
第6回 小野文生(京都大学) 分有の思考へ―ブーバーの神秘主義的言語を対話哲学へ折り返す試み―
第5回 古屋恵太(東京学芸大学) 「自然な学び」の論理から「道具主義」は離脱できるか?―現代社会的構成主義への進歩主義教育の遺産―
第4回 森岡次郎(大阪大学) 「新優生学」と教育の類縁性と背反―「他者への欲望」という視座―
第3回 下司晶(上越教育大学) 〈現実〉から〈幻想〉へ/精神分析からPTSDへ―S.フロイト〈誘惑理論の放棄〉読解史の批判的検討―
第2回 岩下誠(東京大学大学院) ジョン・ロックにおける教育可能性に関する一考察―観念連合を中心に―
第1回 北詰裕子 J.A.コメニウスにおける事物主義と図絵 ― 17世紀普遍言語構想における言葉と事物 ―

過去の受賞理由・報告はこちらをご覧ください。

教育思想史学会奨励賞規約

1.教育思想史研究の発展に寄与する研究業績を顕彰するために「教育思想史学会奨励賞」(以下単に「賞」と呼ぶ)を創設する。

2.賞の対象は、教育思想史学会の会員によって雑誌論文、分担執筆論文等の形で過去3年以内に公刊された単一の単著論文とする。

3.選考委員会は全理事によって構成し、会長が選考委員会の長を兼ねる。

4.選考委員会は賞の対象となる論文を会員から募集する。応募する会員は選考の対象となる自著論文を選考委員会に送付する。

5.会員は選考の対象となる論文を推薦することができる。推薦を希望する会員は、推薦する論文を選考委員会に送付する。

6.選考の対象となる論文は、(1) 会員が応募した論文、および(2) 会員が推薦した論文とする。

7.選考委員会は賞を授与すべき論文を選考し、その著者に賞状ならびに副賞5万円を授与する。