教育思想史学会奨励賞

教育思想史学会奨励賞は、今後、教育思想史研究を担っていくことが期待される、比較的研究歴の浅い、将来性と可能性に富んだ研究者に贈られるものであり、『教育思想事典』(今後は『増補改訂版』の分も含む)の印税寄付による特別会計予算を有効に活用し会員の研究活動に有益な還元を行う一環として、2003/04年度に創設されました。

New!! 第19回教育思想史学会奨励賞の審査結果

第19回教育思想史学会奨励賞の募集は、2021年11月30日に締め切られ、奨励賞特別選考委員会および理事会(奨励賞選考委員会)において厳正に審査した結果、下記の2名の受賞者が決定しました。
以下に、教育思想史学会奨励賞特別選考委員会からの報告を掲載いたします。

【受賞者および受賞論文】

川上 英明(山梨学院短期大学)
「田邊元と森昭の経験主義批判における認識論の問題:京都学派教育学における「行為的自覚」の系譜」(『近代教育フォーラム』第30号、2021年9月)

森田 一尚(大阪樟蔭女子大学)
「E. フロム精神分析理論における宗教論の教育的含意」(『教育学研究』第87巻 第4号、2020年12月)

【授賞理由】

 今回、奨励賞特別選考委員会および理事会(選考委員会)では上記2名に授賞することを決定した。2名授賞となったのは、2つの候補論文がいずれも甲乙つけがたい好論文であったからであるが、他方、それぞれの学術的価値と課題とをどのように見るかについて、審査の過程では各委員から対照的な評価の視点が示され、議論になった。端的に言うならば、思想史研究としての手法の手堅さを評価する視点と、大きな原理的課題にアプローチする思想研究の可能性・おもしろさを評価する視点である。
 川上論文は、森昭によるデューイ批判、経験主義批判の根底に、田邊元の科学哲学――西田の「行為的直観」の立場に対する田邊の「行為的自覚」の立場――の強い影響を確認し、その京都学派的立場の故に、森は戦後教育学におけるイデオロギー対立を相対化することができ、「科学的自然主義」(経験主義とマルクス主義)と「自覚主義」(イデアリズムと実存主義)の「統一」を志向した、と論じている。森のデューイ解釈と経験主義批判について、従来の評価を覆し、新たに鮮やかに描き直している点が高く評価された。
 その一方で、論文の問題設定と議論展開は、ほぼ田邊と森の影響関係の手堅い実証に終始しており、それが森の思想の深化・発展の全体にとってどのような 意味をもったのかについて、とりわけ森が「行為的自覚」の立場を継承しつつ田邊の「絶対無」の弁証法は受容しなかった、とされることの大きな思想的な帰結についての考究には踏み込んでおらず、また、西田哲学と田邊哲学、戦後教育学における保守派と革新派といった説明はやや単純に図式的でもあり、研究のスケールや展望に不満が残る、という評価もあった。
 森田論文は、フロムの精神分析理論における、フロイトとは異なる宗教の位置づけや宗教論の展開、宗教の定義の変容を、先行研究を踏まえつつ丁寧に追いながら、フロムの宗教論の諸相――「人間主義的宗教」と「権威主義的宗教」の識別、人間の内的体験としての宗教、「教化」への抵抗と「宗教的体験」への接近など――を丹念に描出し、その教育的含意を析出している。教育はどこまで宗教と重なるのか、という深く原理的な問いに対して、フロムの理論の明晰な再構成を通して答えようとしている、その議論の明快さとスケールの大きさが高く評価された。
 その一方で、たとえばフロムの思想を生み出した歴史的コンテキストへの言及がほとんどないという点で、この論文は理論的研究ではあっても思想史研究とは言い難い、という評価があった。また、フロムの宗教論の教育的含意を道徳教育に関する今日的な議論に接合する議論はいささか粗く性急である、という難点も指摘された。

 両論文とも、その学術的価値は高く評価されつつ上述のような課題も指摘されたので、評価の視点によって判断は分かれることになる。議論の結果、特別選考委員会では、比較的研究歴の浅い会員の研究を奨励するという賞の趣旨に鑑みて、減点法ではなく、むしろ両論文の、ある意味で対照的な長所をそれぞれ肯定的に評価することを通じて、教育思想史研究という営みの多様な可能性を、とりわけ若手会員に考えていただく契機としたいと考えた。
 今回の2名への授賞に触発されて、これからも緻密な思想史的検討とスケールの大きい歴史的・哲学的パースペクティブとを兼ね備えた意欲的な研究が生み出されることを願いつつ、奨励賞特別選考委員会および理事会(選考委員会)は両論文に第19回教育思想史学会奨励賞を授与するものである。

選考委員会委員長 西村拓生

第19回教育思想史学会奨励賞募集のお知らせ 〈締め切りました〉

教育思想史学会では、下記の通り「教育思想史学会奨励賞」(第19回)の募集を行います。
候補者のノミネートは、会員からの自薦および他薦により行われます。
学会および学会員の方々にとって新たな研究活動に向けた活力の源になることを願って創設されたこの奨励賞に、今回も多くの応募があることを期待しております。

Webサイト上からの応募となりますので、ご注意ください。
教育思想史学会奨励賞(第19回)応募フォームはこちら

応募にあたっては、下記の条件とともに、教育思想史学会ホームページに掲載されている奨励賞規約をご一読ください。

第19回教育思想史学会奨励賞の応募対象

教育思想史学会の会員によって雑誌論文、分担執筆論文等の形で、2018年12月1日以降に公刊された単一の単著論文。

応募に必要なもの

本学会ホームページの画面左にあります「教育思想史学会奨励賞」欄をクリックしていただき、所定のフォームにて以下のご記入をお願いいたします。

①自薦・他薦の別、②記入者氏名、③記入者の所属、④記入者のメールアドレス、⑤応募論文の書誌情報(著者名、タイトル、掲載雑誌名、巻号数、所収頁数)(書籍の場合は、著者名、タイトル、出版年)、⑥(他薦の場合)推薦理由(400字以内)。

応募受付期間

2021年9月1日(水)0時より11月30日(火)24時まで

以上

第18回教育思想史学会奨励賞の審査結果

第18回教育思想史学会奨励賞の募集は、2020年11月30日に締め切られ、奨励賞特別選考委員会および理事会において厳正に審査した結果、受賞者が決定しました。
以下に、教育思想史学会奨励賞特別選考委員会からの報告を掲載いたします。

【受賞者】吉野 敦(早稲田大学大学院)

【受賞論文】「フランスにおける最初期ペスタロッチ受容の思想的基盤――マルク=アントワーヌ・ジュリアン以前の動向に着目して――」(『教育哲学研究』第121号、2020年5月)

【授賞理由】

 本論文は、ジュリアン以前の19世紀初頭に着目しながら、フランスにおける独自なペスタロッチ受容史を明らかにしつつ、その背景にあるイデオローグたちの思想圏と「メトーデ」解釈を通して映しだされる受容と抵抗の様相を浮き彫りにしようとするものである。特に、18世紀のフランス啓蒙思想やその流れをくむコンディヤックの感覚論的哲学原理とその批判をめぐる思想状況にペスタロッチ受容を位置づけることによって、教育思想史における近代性がはらむ相剋を明らかにした点は、本学会に大きな学術的貢献をなし得るものであると高く評価された。

 また、イデオローグの思想圏がドイツ語からフランス語へと翻訳する際の思想的媒体として機能したことが解明されることによって、思想史を単一言語圏の文脈から解放し、間文化的に影響し合う空間のなかに思想史を位置づけ直す可能性を開いた点も、本論文の学術的意義として確認された。

 審査に際しては、現代的な議論の文脈とのつながりが見えにくいため、本論文で示されたペスタロッチ受容をめぐる議論がいかなる教育思想的意味をもつのかという点で、さらなる検討課題を残しているという点も指摘された。しかしながら、ある思想を受容することそのものを教育思想史の対象とすることによって、現代のわれわれの思想受容という営みを反省する契機を本論文が提供しているのだと考えれば、上記の課題は、今後、本論文によって展開された議論をもとに、筆者および私たち自身によって引き取り、展開されるべきものであるといえる。

 以上により、特別選考委員会および選考委員会は本論文に奨励賞を授与するものである。

選考委員会委員長 小玉重夫

教育思想史学会奨励賞・過去の受賞

受賞者(所属) 受賞論文
第17回 堤 優貴(日本大学) 後期フーコーの倫理的主体形成論における『教育的関係』ーー1980年代のプラトン読解を中心にーー
第16回 桑嶋 晋平(東京大学大学院) 戦前・戦中期の勝田守一における他者あるいは他者とともにあることをめぐる問題
第15回 伊藤 敦広(作新学院大学女子短期大学部) 「他なるもの」の理想化としての陶冶――フンボルト陶冶論における古代ギリシャの意義
第14回 該当なし 該当なし
第13回 山田 真由美(慶應義塾大学・院生) 高坂正顕の教育思想における『主体』概念
第12回 村松 灯(東京大学・院生) 非政治的思考の政治教育論的含意―H. アレントの後期思考論に着目して―
第11回 河野桃子(信州大学) 前後期シュタイナーを貫く「世界自己」としての「私」という観点―シュタイナーのシュティルナー解釈に見られる倫理観に着目して―
第10回 生澤繁樹(上越教育大学) 民主的な子どもの性向を育てる―デューイにおける家庭・学校・共同体のアポリア―
第9回 関根宏朗(岩手県立大学) エーリッヒ・フロム『自己実現』論の再構成―『持つこと』と『在ること』の連関に注目して―
第8回 鈴木篤(兵庫教育大学) 1920年代ドイツ「教育の限界論争」の再検討―S.ベルンフェルトの議論を中心に―
第7回 青柳宏幸(中央大学・非常勤) マルクスにおける労働と教育の結合の構想―国際労働者協会ジュネーブ大会における教育論争を手がかりとして―
第6回 小野文生(京都大学) 分有の思考へ―ブーバーの神秘主義的言語を対話哲学へ折り返す試み―
第5回 古屋恵太(東京学芸大学) 「自然な学び」の論理から「道具主義」は離脱できるか?―現代社会的構成主義への進歩主義教育の遺産―
第4回 森岡次郎(大阪大学) 「新優生学」と教育の類縁性と背反―「他者への欲望」という視座―
第3回 下司晶(上越教育大学) 〈現実〉から〈幻想〉へ/精神分析からPTSDへ―S.フロイト〈誘惑理論の放棄〉読解史の批判的検討―
第2回 岩下誠(東京大学大学院) ジョン・ロックにおける教育可能性に関する一考察―観念連合を中心に―
第1回 北詰裕子 J.A.コメニウスにおける事物主義と図絵 ― 17世紀普遍言語構想における言葉と事物 ―

過去の授賞理由

過去の授賞理由はこちらをご覧ください。

教育思想史学会奨励賞規約

1.教育思想史研究の発展に寄与する研究業績を顕彰するために「教育思想史学会奨励賞」(以下単に「賞」と呼ぶ)を創設する。

2.賞の対象は、教育思想史学会の会員によって雑誌論文、分担執筆論文等の形で過去3年以内に公刊された単一の単著論文とする。

3.選考委員会は全理事によって構成し、会長が選考委員会の長を兼ねる。

4.選考委員会は賞の対象となる論文を会員から募集する。応募する会員は選考の対象となる自著論文を選考委員会に送付する。

5.会員は選考の対象となる論文を推薦することができる。推薦を希望する会員は、推薦する論文を選考委員会に送付する。

6.選考の対象となる論文は、(1) 会員が応募した論文、および(2) 会員が推薦した論文とする。

7.選考委員会は賞を授与すべき論文を選考し、その著者に賞状ならびに副賞5万円を授与する。